スポーツにおける上肢の悩みは様々ありますが、ここでは投球動作の動作を分析することで怪我の原因を追究し、予防・改善につなげていきたいと思います。(テニスのサーブなど類似する動作にもお役に立てます)
投球モーションには名称があり、「ワインドアップ期」「早期・後期コッキング期」「加速期」「フォロースルー期」とされています。(※諸説あり)
ワインドアップ期
ここでのポイント 1.片脚でのバランス
体幹の固さ、インナーマッスルの低下や、大殿筋・中殿筋の筋力低下。これらによりバランスを崩し、後のモーションに影響が出ます。
ここでのポイント 2.軸足の可動域
この絵では右足になります。股関節を内側に捻る「内旋」という動きの可動域が狭いと、身体を捻じれなくなるため、ボールに勢いがつかず手投げになりやすいのと、捻ったときにバランスを崩しやすくなります。
早期コッキング期
ここでのポイント 1.身体の拡がり
肋骨や肋間筋の固さがあると上半身が拡げにくくなり、その分肩を捻ってしまいやすくなります。また、バネのような力が出にくくなるため、球速にも影響します。
また、大胸筋が固いと巻肩の状態になり、肩と体幹の連動した開きが作れなく、上腕骨の根本を引き下げてしまうため、回旋筋腱板への負担が大きくなります。
ここでのポイント 2.肩甲骨の動き
肩甲骨は胸郭の上を滑るように動いているため、胸郭の形状や柔軟性が大きく影響します。肩甲骨の動きが悪くなると回旋筋腱板の負担が大きくなり、損傷や断裂に繋がります。
ここでのポイント 3.下半身の柔軟性
両足を大きく開く状態になるため、内転筋などの内側の筋肉の柔軟性が必要になります。ここが固いと開かないだけでなく、骨盤を引っ張ってしまうので体幹が傾きやすくなり、肘が過度に下がったりします。
ここでのポイント 4.踏み込む足の安定性
前に踏み出した左足の大腿四頭筋、大殿筋などの筋力低下があると、足を着いたときにブレ易くなり、捻挫などに繋がります。
後期コッキング期
ここでのポイント 1.肩の外旋(外に捻じる)可動域
肩の外旋の可動域が狭いと腕をしならせることができなくなるため、手投げになってしまうと同時に、大きく外旋させたときに肩の安定性が失われ、腱板損傷などの危険があります。体幹の側面、脇腹あたりの固さがあると、さらに外旋は難しくなります。
ここでのポイント 2.前足の内旋(内に捻じる)可動域
左に体重が乗りますが、その時股関節は内側に捻じれます。そのため、内旋の可動域が少ないとバランスを崩すだけでなく、足を固定するために内転筋などに負担が大きくなります。膝の痛みや、腰の過度な反りに繋がりやすくなります。
ここでのポイント 3.後ろ足の指・ふくらはぎの力
右足でズレないように地面を掴むようにしながら、前に押し出す力を発揮させる必要があります。柔軟性や筋力がないと攣り易くなります。
ここでのポイント 4.前足の身体を引き付ける力
左足股関節の腸腰筋の力を使い、大きく踏み出した足に体幹を引き寄せる必要があります。腰骨も安定させる筋肉なので、左足への体重移動がスムーズになります。
加速期
ここでのポイント 肘の高さ
体幹前面、側面の固さがあると身体が開かず、肘が下がってしまいます。また、左足の不安定さがあると動作についていけず、身体が前のめりになりすぎてしまいます。
フォロースルー期
ここでのポイント 動作の制動力
振り下ろした肩を制動する必要があります。左足の大殿筋の筋力、骨盤・背骨の可動性、背筋力と柔軟性、などが不足していると身体全体での制動ではなく、肩だけの制動になってしまい、これも腱板損傷などに繋がります。
また、投げ終わりの姿勢を維持できないと、自然とその動きを避けてしまうため、上半身を起こしておける柔軟性とバランスも必要です。
実際に必要なことは
このように各フェーズ毎にポイントをまとめました。他にもたくさんポイントがあるため、あくまでも当院での考え方と思って下さい。また、実際には各フェーズ毎に対処していくというのは不可能と思ってください。
なぜなら、「投げる」という動作は反射に近いものと言われている部分があり、意識できるのは最初のフォームと投げ終わりのフォームくらいと言われています。そのため、必要なことは各ポイントをクリアできる身体の状態を作っておくことです。
今回挙げたポイントの中でも、そうでなくても、思い当たる部分があり改善をと思う方はぜひご相談下さい。
体幹機能はパフォーマンスを向上させるための一つの大きな要素だということは言うまでもないと思います。しかし、柔軟性を取り戻しただけではまた元に戻ってしまうかも。
効果を持続させ、さらなる改善のためには体幹が固くなってしまう原因を追究する必要があります。それには生活習慣や病気等の既往歴など個人差があるため、残念ながらここでお伝えすることは困難です。
当院では病院やクリニックなどでの経験を基に筋骨格系はもちろん、内科的、脳神経的な観点からも体幹の機能低下の原因を追究していきます。投球障害という「結果」を引き起こす「体幹機能低下」というのもまた「結果」に過ぎません。この「結果」を引き起こす「原因」を追究し、着実に改善に導いていきます